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大人のための再学習:なぜ魚は水中で息ができるのか?(呼吸の基礎)

Tags: 魚, 呼吸, 鰓, 生物学, 基礎

水の中の生き物、魚の呼吸の不思議

私たちは普段、空気中の酸素を吸って生きています。しかし、魚は水中で平然と活動していますね。一体どのようにして、魚は水の中から酸素を取り込んでいるのでしょうか。改めて考えると、不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、魚が水中で「息をする」ための特別な器官、「鰓(えら)」の仕組みについて、基礎からじっくり見ていきましょう。

魚の「肺」にあたる器官:鰓(エラ)

人間が肺を使って空気から酸素を取り込むように、魚には「鰓(えら)」という呼吸のための器官があります。この鰓は、魚の頭部の両側、エラぶた(鰓蓋、さいがい)の下に隠されています。

魚が口を開けて水を吸い込み、エラぶたの後ろから水を出す様子をご覧になったことがあると思います。このとき、吸い込まれた水は鰓の中を通り抜けています。この通り抜ける間に、水に溶けている酸素が魚の体内に取り込まれるのです。

鰓の巧妙な仕組み:たくさんのヒラヒラ

エラぶたを開けて鰓をよく見ると、たくさんの赤いヒラヒラした構造が見えます。これを「鰓弁(さいべん)」と呼びます。この鰓弁には、非常にたくさんの毛細血管が張り巡らされています。

魚は、口から取り込んだ水をこの鰓弁に流します。水が鰓弁の表面を通過する際に、水に溶けている酸素が毛細血管の中の血液に取り込まれます。同時に、体内で不要になった二酸化炭素は、血液から水の中に排出されます。

効率よく酸素を取り込む秘密:向流交換

魚の鰓が非常に効率よく水中の酸素を取り込めるのには、特別な仕組みがあります。それは「向流交換(こうりゅうこうかん)」と呼ばれるものです。

鰓の毛細血管の中を流れる血液と、鰓弁を通過する水は、互いに逆の方向に流れています。このように逆方向に流れることで、常に酸素濃度の高い水と、酸素をまだ十分に取り込んでいない血液が接する状態が生まれます。これにより、水中のわずかな酸素でも、効率的に血液中に移すことができるのです。まるで、すれ違うことでエネルギーを最大限に交換するような、非常に巧妙なシステムです。

空気中に比べて、水に溶けている酸素の量は非常に少ないため、魚はこの効率的な向流交換の仕組みを発達させてきました。

人間と魚、呼吸の違いに見る進化の歴史

人間が肺を持ち、魚が鰓を持つという違いは、生物が進化の過程で環境に適応してきた結果です。遠い昔、生物は水中から始まりました。魚の祖先は水中で生活するために鰓を発達させました。

その後、一部の生物が陸上へ進出する際に、空気から効率よく酸素を取り込める肺へと呼吸器官を変化させていったと考えられています。魚の鰓の仕組みを知ることは、地球上の生命がたどってきた壮大な進化の物語の一端に触れることでもあるのです。

現代では、この鰓の仕組みを参考に、水中で活動するための人工的な装置や、水の浄化システムなどが研究されている例もあります。

まとめ:身近な疑問から広がる科学の世界

魚が水中で息をするという当たり前の現象の裏には、鰓という複雑で巧妙な器官の働きと、長い進化の歴史が隠されています。

今回ご紹介した「鰓」の仕組みは、生物学や化学、そして物理学の原理が組み合わさった、まさに自然の驚くべきメカニズムの一つと言えるでしょう。身近な生き物の不思議から、科学の奥深さを感じていただけたなら幸いです。