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大人のための再学習:なぜ氷は水に浮くのか?(物理・物質の基礎)

Tags: 物理, 物質, 水, 氷, 密度

氷はなぜ水に浮くのでしょうか?

私たちの身の回りには、当たり前だと思っているけれど、よく考えると不思議な科学現象がたくさんあります。例えば、コップに入れた飲み物に氷を入れると、氷は沈まずにプカプカと水面に浮いていますね。

多くの物質は、固体になると液体よりも重くなり、その液体の底に沈みます。鉄を溶かして液体にした鉄の中に固体の鉄を入れると沈みますし、ロウを溶かした液体ロウの中に固体のロウを落とすと沈みます。

それなのに、なぜ氷は水の底に沈まず、水面に浮くのでしょうか。今回は、この身近な「氷が水に浮く」という現象の理由を、大人の視点でじっくりと見ていきましょう。

浮くか沈むかを決める「密度」

物が液体に浮くか沈むかは、「密度(みつど)」という性質によって決まります。

密度とは、物質のぎゅっと詰まっている度合いのようなものです。同じ大きさ(体積)であれば、密度が大きいものほど重くなります。逆に、同じ重さであれば、密度が小さいものほど体積が大きくなります。

例えば、同じ大きさの箱があったとします。片方には軽い発泡スチロールが、もう片方には重い鉄の塊が詰まっていると想像してください。鉄が詰まった箱の方が断然重いですね。これは鉄の方が発泡スチロールよりも密度が大きいからです。

水の中に物を入れたとき、その物の密度が水の密度よりも小さければ浮き、水の密度よりも大きければ沈みます。これは、水がその物体の体積と同じだけの水の重さ(浮力)で物を押し上げるためです。物の重さが水の浮力より軽ければ浮き、重ければ沈む、と考えることもできます。

つまり、氷が水に浮くということは、氷の密度が水の密度よりも小さいということを意味しています。

なぜ氷は水より密度が小さいのでしょうか?

ここで不思議に思うのは、「氷は水を冷やして固めたものなのに、なぜ液体の水より密度が小さくなるのだろうか?」ということです。通常、多くの物質は冷えて固体になると、原子や分子の並びがぎゅっと密になり、体積が少し減ります。同じ重さで体積が減るということは、密度は大きくなるはずです。

しかし、水は少し特殊なふるまいをします。水が氷になるとき、体積は減るどころか、およそ9%も増えるのです。

水はH₂Oという分子でできています。この水の分子は、凍るときに「水素結合(すいそけつごう)」と呼ばれる特別な結びつき方で、規則正しい六角形の隙間が多い構造を作ります。液体だった水は、分子が比較的バラバラに動き回っていますが、固体である氷になると、この水素結合によって分子がしっかり結びつき、安定した構造を取ります。この構造には、液体だった時よりも大きな隙間ができてしまうのです。

例えるなら、液体だった水は満員電車のように分子が詰まっていますが、氷になると指定席のように規則正しく並んで、座席と座席の間に広い通路ができてしまうようなイメージです。

同じ重さ(例えば1グラム)の水が氷になると、体積が増えてしまいます。同じ重さなのに体積が大きくなるということは、密度は小さくなるということです。

だから、氷は液体の水よりも密度が小さく、水面に浮くことができるのです。

水の特殊な性質とその重要性

このように、固体が液体より密度が小さいという性質は、水の非常に珍しい特徴です。ほとんどの物質は、固体の方が液体より密度が大きいのです。

この水の特殊な性質は、私たちの生活や地球環境にとって非常に重要です。

もし、氷が水よりも密度が大きく、水の中に沈んでしまうとしたらどうなるでしょうか。寒い冬に池や川の水面が凍り始めると、できた氷は底に沈んでいきます。すると、また新しく水面が凍り、その氷も沈む...ということを繰り返し、池や川は底から凍っていくことになります。

そうなると、水の中に住む魚や微生物は凍ってしまい、生態系は大きなダメージを受けるでしょう。湖や海の深い部分も凍りついてしまい、地球全体の気候にも大きな影響を与える可能性があります。

しかし、氷が水に浮くおかげで、水面にできた氷は水面に留まります。この氷の層は、下の水の温度がさらに下がるのを防ぐ断熱材のような役割を果たします。その結果、水底近くの水温は4℃程度に保たれることが多く、水中の生き物たちは凍結を免れることができるのです。

普段何気なく見ている氷が水に浮くという現象の裏には、水の特別な性質と、それが地球の自然環境や生命にとってどれほど大切かという深い意味が隠されているのです。

まとめ

今回は「なぜ氷は水に浮くのか」という疑問を通して、密度という概念、そして水の持つ特別な性質について見てきました。

身近な現象の中に、基礎的な科学の原理が隠されています。これからも、日々の暮らしの中で「なぜだろう?」と感じたことを、一緒に学び直していけたら幸いです。