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大人のための再学習:なぜ電池は電気を生むのか?(化学・物理の基礎)

Tags: 電池, 電気, 化学, 物理, 酸化還元反応

私たちの生活を支える電池

スマートフォンやリモコン、懐中電灯など、私たちの身の回りには電池を使った製品があふれています。コンセントにつなぐ必要がないため、どこでも使えるという便利さから、現代社会には欠かせない存在です。

しかし、この小さな箱や筒が、一体どうして「電気」を生み出すことができるのでしょうか。充電式の電池とそうでない電池がありますが、基本的な仕組みは同じです。ここでは、電池が電気を生む基本的な原理について、化学と物理の基礎からご紹介します。

電池の正体は「化学反応」を利用した装置

電池を一言でいうと、「化学反応によってエネルギーを取り出し、それを電気エネルギーに変える装置」です。中学校や高校で化学を学んだ際に、「酸化」や「還元」といった言葉を耳にしたことがあるかもしれません。電池の仕組みは、まさにこの酸化還元反応と深く関わっています。

すべての物質は、原子という非常に小さな粒でできています。原子はさらに、プラスの電気を帯びた「陽子」と電気を帯びていない「中性子」からなる原子核の周りを、マイナスの電気を帯びた「電子」が回る構造をしています。化学反応が起こる際には、この電子のやり取りが行われることがあります。

電子の移動が電気になる

電池の中には、通常、「プラス極」と「マイナス極」、そしてその間にある「電解質」と呼ばれる液体やペースト状の物質が入っています。

マイナス極では、ある物質が電子を放出する反応(酸化)が起こります。放出された電子は、導線を通ってプラス極へ移動しようとします。一方、プラス極では、別の物質がその電子を受け取る反応(還元)が起こります。

このとき、マイナス極からプラス極へと電子が一方的に流れる、この「電子の流れ」こそが、私たちが「電流」と呼んでいるものの正体なのです。

電解質は、この電子の流れを助けるために、電池内部でイオン(電気を帯びた原子や分子)が移動する通路の役割を果たしています。もし電解質がないと、電子は導線を流れても、電池内部でのイオンのやり取りが滞ってしまい、反応が進まなくなってしまいます。

身近な電池を例に

最も基本的な電池の例として、18世紀末にイタリアのボルタが発明した「ボルタ電池」があります。これは、亜鉛板と銅板を希硫酸などの電解液に入れたものです。

亜鉛板(マイナス極)では、亜鉛が電子を放出してイオンになります。放出された電子は導線を通って銅板(プラス極)へ移動します。銅板では、電解液中の水素イオンがその電子を受け取って水素ガスになります。このように、亜鉛から電子が銅板へと流れることで電気が発生するのです。

現代の様々な電池、例えばマンガン乾電池やアルカリ乾電池、そして携帯電話などに使われるリチウムイオン電池なども、基本的には異なる種類の物質を使った酸化還元反応を利用して電子を移動させ、電気を取り出しています。使われている材料によって、取り出せる電圧や持続時間、さらには充電できるかどうかなどが変わってくるのです。

大人の視点で見る電池

電池の歴史は古く、科学の発展とともに進化してきました。ボルタ電池の発見は、電気化学という新しい分野を切り開き、電気が化学反応から生まれることを示しました。これは、それまでの静電気や雷といった現象としての電気とは異なる、持続的に電気を取り出す方法として画期的なものでした。

現代では、電池は単に持ち運び可能な電源としてだけでなく、再生可能エネルギー(太陽光や風力など)で発電された電気を蓄えたり、電気自動車を動かしたりと、エネルギー問題を解決する上でも非常に重要な役割を担っています。より高性能で安全な電池の開発は、今も世界中で進められています。

なぜ電池から電気が生まれるのか? その答えは、物質の持つ化学エネルギーを、電子の移動という物理的な現象(電気)に変える巧妙な仕組みにあるということがお分かりいただけたかと思います。身近な電池一つをとっても、そこには基礎的な化学と物理の原理が詰まっているのです。