大人のための再学習:なぜ物は浮くのか、沈むのか?(物理の基礎)
なぜ、あの物体は水に浮くのだろう?
私たちは日常生活の中で、様々な物体が水に浮いたり、沈んだりする様子を目にします。木切れは水面に浮かびますが、石ころはすぐに沈んでしまいます。
また、ずっしりと重い鉄でできた船が、なぜか水に浮かんでいられるのは不思議に感じませんか。一方で、同じ鉄でできた小さな釘は簡単に沈んでしまいます。
この「浮く」「沈む」という現象は、物理学の基礎的な原理で説明することができます。今回は、この身近な疑問を、大人の視点からゆっくりと再学習してみましょう。
物体を水中で支える「浮力」
物体が水に浮いたり沈んだりする現象の鍵を握るのは、「浮力」と呼ばれる力です。浮力とは、液体(や気体)の中にある物体に対して、その液体(や気体)が上向きに作用する力のことです。
水中では、物体は下向きに引っ張る「重力」と、上向きに押し上げようとする「浮力」の二つの力を同時に受けています。どちらの力が強いかによって、物体が浮くか沈むかが決まるのです。
浮力はなぜ生まれる? 水圧の働き
では、なぜ浮力という上向きの力が生まれるのでしょうか。それは、水圧に関係があります。
水圧は、水の深さが深くなるほど大きくなります。水の中にある物体は、その表面全体で水圧を受けていますが、物体の上面よりも底面の方が少しだけ水深が深いため、底面にかかる水圧の方が上面にかかる水圧よりも大きくなります。
この水圧の差によって、物体は下から押し上げられるような力を受けます。これが浮力の正体です。
アルキメデスの原理と浮力の大きさ
浮力の大きさを正確に説明したのが、古代ギリシャの科学者であるアルキメデスだと言われています。彼は「お風呂に入ったときに水があふれるのを見て発見した」という逸話で有名ですね。
アルキメデスが発見した原理は、「物体が受ける浮力の大きさは、その物体が押しのけた液体(この場合は水)の重さに等しい」というものです。
例えば、コップいっぱいの水に何か物体を入れると、水があふれます。そのあふれた水の重さを量ると、それが物体が水中で受ける浮力の大きさと全く同じになる、ということです。この原理は、船の設計など、様々な場面で活用されています。
浮くか沈むかは「重力」と「浮力」の綱引き
物体が水に浮くか、それとも沈むか、あるいは途中で静止するかは、その物体にかかる「重力」と「浮力」のどちらが大きいかで決まります。
- 重力 > 浮力: 物体は沈みます。石や釘などがこれにあたります。
- 重力 < 浮力: 物体は浮き上がります。木切れや空気をたくさん含んだ物体などがこれにあたります。物体の一部が水面から出て、ちょうど重力と浮力が釣り合ったところで静止します。これが「浮かぶ」状態です。
- 重力 = 浮力: 物体は水中で、その位置に静止します。潜水艦が水中で停止している状態などがこれにあたります。
これは言い換えると、物体の「密度」(質量を体積で割った値)と水の「密度」の関係で考えることもできます。物体の方が水より密度が大きければ沈み、小さければ浮く、密度が同じなら水中に漂う、というシンプルな法則になります。
鉄の船はなぜ浮くのか? 密度の工夫
先ほどの疑問に戻りましょう。鉄は水よりもずっと密度が大きいのに、なぜ鉄でできた船は水に浮かぶのでしょうか。
これは、船が「鉄の塊」ではなく、「鉄を材料にして大きな箱のような形」に作られているからです。船の中は空洞になっており、多くの空気が含まれています。船全体の重さ(重力)は、船体に使われている鉄の重さだけでなく、船の中にある空気や積荷なども含めたものになります。
一方、船が押しのける水の体積は、船体が水中に沈んでいる部分の体積全体です。大きな箱のような形なので、少し水に沈んだだけでも、非常に大きな体積の水を押し退けることができます。
船全体の平均的な密度(船全体の重さを、船が水中で押しのけた部分の体積で割った値)は、船体に使われている鉄や積荷だけでなく、内部の空気も含めて計算されます。その結果、船全体の平均密度が水の密度よりも小さくなるように設計されているため、鉄でできた船でも水に浮くことができるのです。潜水艦が浮き沈みするのは、この平均密度を内部の水の量を調節して変えているためです。
まとめ:身近な現象に潜む物理の原理
なぜ物が浮くのか、沈むのか。この素朴な疑問から、「浮力」という物理の基本的な考え方、そしてアルキメデスの原理や密度の概念が見えてきました。
普段何気なく目にしている現象も、少し立ち止まって考えてみると、その裏には興味深い科学の原理が隠されていることが分かります。
この「リブートサイエンス」では、これからも、こうした身近な科学の基礎を、大人の視点からゆっくりと再学習していきたいと考えています。