大人のための再学習:なぜ川の水はしょっぱくないのか?(地学・化学の基礎)
身近な疑問、川の水と海の水の味の違い
私たちの周りには、川の水、湖の水、海の水のさまざまな水があります。その中で、海の水だけが特別にしょっぱい味がすることは、誰もが知っていることです。では、同じ地球上の水なのに、なぜ川の水はしょっぱくなく、海の水はしょっぱいのでしょうか。
今回は、この身近な疑問を解き明かすために、地学や化学の基礎的な考え方を使って、地球上の水の仕組みを一緒に見ていきましょう。難しい数式は使いませんので、どうぞご安心ください。
地球上の水の旅:水の循環
地球上の水は、形を変えながら常に移動しています。これを「水の循環」と呼びます。
- 蒸発: 太陽の熱によって、海や川、地面の水が水蒸気(気体)になります。植物からも水蒸気が出ます。
- 凝結: 上空に昇った水蒸気は冷やされて、小さな水の粒や氷の粒に変わります。これが集まって雲ができます。
- 降水: 雲の中で水の粒や氷の粒が大きくなると、雨や雪となって地上に降ってきます。
- 集まる: 地上に降った水の一部は地面に染み込み地下水となり、一部は地表を流れて川となります。川の水は低い方へ流れ、やがて海にたどり着きます。
このように、水は海から蒸発して雲になり、雨となって山や地面に降り、川となって再び海へ戻るという大きなサイクルを繰り返しています。
川の水がミネラルを含むまで
地上に降り注いだ雨水は、実はわずかながら空気中の二酸化炭素などを溶かし込んでおり、ごく弱い酸性になっています。この雨水が、地表の岩石や土壌の間を流れる際に、岩石に含まれているさまざまな物質を少しずつ溶かし出します。
岩石には、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムといったミネラル分が含まれています。これらのミネラルは、海水の塩分の主な成分でもあります。つまり、川の水は、もともとこれらのミネラルを微量ながら含んでいるのです。
なぜ川はしょっぱくならないのか?
川の水もミネラルを含んでいるならば、なぜ海のようにしょっぱくならないのでしょうか。その理由は、主に二つあります。
一つ目は、川を流れる水のスピードです。川の水は、山から海に向かって比較的速い速度で流れています。地上に降った水が岩石からミネラルを溶かし出す時間は限られていますし、溶け出したミネラルもすぐに下流へと運ばれてしまいます。
二つ目は、水の滞留時間です。川の水は、基本的に常に流れ続けています。水が同じ場所に留まっている時間が短いのです。
一方、海は地球上の水のほとんどが集まる場所であり、非常に広大です。川から流れ込んだ水や、地下水として湧き出た水が、長い長い時間をかけて蓄積されています。海の水は蒸発しますが、その時に水(H₂O)だけが気体になって上空へ行きます。溶け込んでいるミネラルは蒸発しないため、海に残ります。これを繰り返すうちに、海の水に含まれるミネラル分の濃度はどんどん高くなっていったのです。
たとえるなら、川は通り過ぎる旅人が少しだけ荷物を置いていく場所、海は何十年、何百年とかけて世界中から旅人が荷物を運び込んでくる倉庫のようなものです。川でもミネラルは運び込まれますが、すぐに流れていってしまいます。海では運び込まれたミネラルがずっと蓄積されるため、濃度が高くなるというわけです。
塩湖の例外
世界には、海ではないのに塩分濃度が高い「塩湖」と呼ばれる湖も存在します。これは、流れ込む川はあっても、そこから流れ出る川がなく、蒸発によって水だけが減ることで塩分が濃縮されてできたものです。これは、海で塩分濃度が高くなるのと同じメカニズムが、閉じた湖の中で起こっている例と言えます。
まとめ
川の水がしょっぱくなく、海の水がしょっぱいのは、地球上の水の壮大な循環と、岩石から溶け出すミネラルの働き、そしてそれぞれの場所での水の流れや滞留時間の違いによるものです。川はミネラルを運びますが、常に流れているため濃度は低いままです。一方、海は水が集まり、蒸発によってミネラルが濃縮されることで、長い時間をかけて塩分濃度が高くなっていったのです。
普段何気なく接している水にも、地球の長い歴史と物理、化学の法則が関わっていることを感じていただけたでしょうか。