大人のための再学習:なぜ水は凍ると体積が増えるのか?(物質の基礎)
水が凍る時の不思議
冬場にペットボトルを凍らせようとして、容器がパンパンに膨らんだり、時には破裂したりした経験はございませんか。あるいは、古い木造住宅では冬に水道管が凍結して破裂することがあります。
これは、水が凍って氷になるときに、液体の状態よりも体積が増えるという水の非常に珍しい性質によるものです。多くの物質は、温度が下がって固体になると体積が小さく(収縮)なります。しかし、水は逆なのです。なぜ水だけがこのような特別な振る舞いをするのでしょうか。
ほとんどの物質が冷えると縮む理由
物質は、非常に小さな粒である「分子」が集まってできています。この分子は常に振動したり、動き回ったりしています。温度が高いほど、分子の動きは激しくなります。逆に、温度が低いほど分子の動きは穏やかになります。
多くの物質が冷えると体積が縮むのは、分子の動きが穏やかになることで、分子同士がより近くに集まりやすくなるためです。固体になると分子は特定の場所に固定されますが、振動の幅が小さくなるため、全体として占める空間が小さくなる傾向があります。
水の特別な構造:水素結合
さて、水(H₂O)の場合はどうでしょうか。水の分子は、真ん中に酸素原子(O)があり、その両側に水素原子(H)がくっついた形をしています。この分子の形に秘密があります。
酸素原子は少し電気的にマイナスを帯びやすく、水素原子は少しプラスを帯びやすい性質があります。このため、水分子同士が近づくと、ある水分子の水素原子(プラス側)が、別の水分子の酸素原子(マイナス側)に引き寄せられ、弱いながらも特別な結びつきを作ります。これを「水素結合」と呼びます。
液体状態の水の中では、水分子は動き回っていますが、この水素結合があちこちでできたり壊れたりしています。分子は比較的自由に動き回れるため、ぎゅっと詰まったような状態になっています。
氷の結晶構造
水が凍って温度が0℃以下になると、水分子の動きがさらに遅くなり、水素結合がより安定して固定されるようになります。このとき、水分子は水素結合によって規則正しい立体的な構造、つまり「結晶」を作ります。これが氷です。
この氷の結晶構造は、水分子が六角形のような、少し隙間のある配置をとることが特徴です。例えるなら、液体状の水が「人がぎゅうぎゅう詰めの満員電車」だとすると、氷は「規則正しく椅子が並べられたコンサート会場」のようなイメージです。席と席の間には隙間ができますね。
水が凍る際には、液体状態の比較的詰まった状態から、この隙間の多い結晶構造へと変化します。そのため、同じ数の水分子が集まっても、氷になった方が広い空間を占めることになります。これが、水が凍ると体積が増える理由なのです。具体的には、水は凍ると体積が約9%増えます。
身近な現象と自然界への影響
水が凍る時に膨らむ性質は、私たちの日常生活だけでなく、自然界においても非常に重要な影響を与えています。
- 水道管の破裂: 冬に外気温が氷点下になると、水道管内の水が凍り、体積が増えて管を内側から押し広げ、破裂させることがあります。
- 岩石の風化: 岩の割れ目に染み込んだ水が凍結・膨張を繰り返すことで、岩石を徐々に破壊していきます。これは「凍結破砕(とうけつはさい)」と呼ばれる風化作用の一つです。
- 湖や川の凍結: 湖や川は表面から凍ります。これは、氷が水よりも密度が小さいため、水面に浮くからです。もし氷が水より重くて沈む性質だったら、湖や川は底から凍りつき、水中の生物は生きていけなくなってしまいます。氷が表面に蓋をすることで、下の水温が極端に下がらず、生物を守る役割を果たしています。
このように、水が凍る時のちょっと変わった性質は、私たちの身の回りや地球の環境にとって、なくてはならない大切な働きをしているのです。
まとめ
今日は、なぜ水が凍ると体積が増えるのか、その理由を水の分子構造と水素結合という基礎的な視点から解説いたしました。
ほとんどの物質とは異なり、水は液体から固体(氷)になるときに、水素結合によって水分子が隙間の多い規則正しい構造を作るため、体積が増加します。この性質は、私たちの生活や自然環境に様々な形で影響を与えています。
身近な現象一つ一つに、必ず科学的な理由があります。少し立ち止まって「なぜ?」と考えてみると、日常の見方が変わってくるかもしれませんね。リブートサイエンスでは、これからも身の回りの科学の基礎について、大人の視点から分かりやすくお届けしてまいります。